森と怪物(1)
昔々、大きな森の近くに、一つの小さな村がありました。
その村の人々は森を恐れ、決してそこに近づこうとはしませんでした。
昼間でも薄暗くて不気味なその森には、怪物が棲んでいるという言い伝えがあったのです。
子供たちが森に入ろうとすると、大人たちはよく、
「森の怪物に食われちまうぞ」
と言いました。
ところが最近では、村のほとんどの人はそのような話を信じないようになっていました。
子供が森に入ると危ないから、森に近づかせないようにするために、そのような作り話をしているのだろう。村人の多くがそのように思っていました。
しかし子供たちに至っては、
「怪物がどんなやつか確かめに行こうぜ」
と言い出す者までいたのです。
そんなある日、村の子供が何人か、遊びに行ったまま夕方になっても帰ってきませんでした。
心配した親が他の子供たちに聞くと、その子たちは森の怪物の正体を探ろうとしていたというのです。
いなくなった子供は、全員がちょうど好奇心旺盛な年頃の男の子でした。
村の人々は、すぐに子供たちを探しに行くことにしました。夜になれば、森はますます危険になるでしょう。一刻も早く子供たちを見つけなければなりません。
老人たちは、
「怪物が出るぞ」
と言いましたが、この事態にその言葉に耳を傾ける者はいません。
村の若者五人が、森に入って子供たちを探すことになりました。
彼らはいなくなった子供の両親たちに声をかけると、森の中へと入っていきました。
しばらくして、辺りがずいぶん暗くなってきました。しかし、若者たちも子供たちも戻ってきません。
両親たちは自分たちも森へ入ろうとしましたが、夜の森は大人でも危険だからと周りの村人に止められてしまい、ただうろたえるばかりでした。
次の日になっても、いなくなった人々は帰ってきませんでした。
「怪物に食われたんじゃ」
と村の老人は言います。
朝のうちに、さらに村の若者が十人、森へ探しに行くことになりました。
普段から薄暗いとはいえ、昨日よりは森も明るく、いくらか安全であると思われます。
村人たちは、今度こそ帰ってこない人々が見つかることを願いながら、若者たちを森まで見送ります。
それから数時間が過ぎました。しかし、森からは誰も出てくる気配がありません。
「なぜ誰も帰ってこないんだ?」
「一体森で何があったんだ?」
「まさか、本当に怪物が出たんじゃ……」
「馬鹿言え、そんなの作り話に決まってるだろ」
ただならぬ事態に、村人たちは口々に騒ぎ始めます。何も状況が分からないまま、ただただ時間だけが過ぎていきました。