平凡な日常に飽き飽きしてた俺の前に、とうとう異世界トラックが現れた!(1)

ピピピピピピピピ。

いつも通りの時間にいつも通りのアラーム音で目を覚ました俺は、いつも通り一階に向かい、いつも通りの朝食を食べる。あ、珍しく味噌汁にキノコが入ってる。

そしていつも通り食事を終えた俺はいつも通り二度寝……を母親に阻止され、いつも通り学校へと向かうのだった。

いつも通り遅刻ギリギリに到着し、そして始まるいつも通りの退屈な学校生活。転校生が来ることもなければ、突然デスゲームが始まることもない。いつも通りの、平凡で、平和な日常。

別に、今の人生に不満がある訳じゃない。友人とつるんだりするのはそれなりに楽しいし、クラスには可愛い女子もいる。

それでも、平穏に過ぎ去ってゆく日々を、どこか退屈に感じてしまう。

現実からの逃避というより、非日常への憧れというか。

つい、まるでテレビのヒーローの存在を信じる子供のように、心のどこかで〈それ〉との遭遇を願ってしまう。

「ねえ、聞いた?三組の高田、異世界転生したんだってさ」
「高田ってあの不登校の奴か?随分思い切ったな」

ある日、いつものように登校すると、学校中が騒ぎになっていた。何でも、高田という男子生徒が異世界転生したというのだ。

異世界転生。その言葉に、つい胸が踊る。

「そういえば、去年行方不明になった西沢っていただろ?あいつもそうだったって噂だぜ」
「へえ、マジ?超ウケる」
「最近流行ってるよな、異世界転生。二組の森下の従兄弟も転生したらしいし」
「実はうちのおじいちゃんも、こないだ異世界転生したんだよね」

どこもかしこも異世界転生の話題で持ち切りだ。ていうか意外と多いな、異世界転生。羨ましい限りだ。

いつもと違う学校の様子に何かが起こりそうな予感を感じた俺だったが、教師がやってきて騒ぎが収まると、またいつものつまらない日常が始まったのだった。

いつものように授業を受けて、放課後には部活動。へとへとになって帰るのも完全にいつも通りの流れだ。非日常は非日常だから非日常なんだなあ――などと訳の分からないことをぼんやり考えながら、談笑する友人たちの後ろを歩いた。

事件が起こったのは帰宅してすぐだった。宿題を学校に忘れてきたことに気づいたのだ。ただの宿題ではない。教師が滅茶苦茶厳しい数学の宿題だ。他の宿題なら、学校に忘れようが家に忘れようが決して狼狽えることはない。そもそもやらないことが多いくらいだ。でも数学の宿題だけは別だ。あれだけは何が何でもやらなくちゃならない。

俺は一旦深呼吸して、明日の時間割を確認する。午後の授業ならまだチャンスはある。どれ、木曜日の数学は……一限!終わった!ご愛読ありがとうございました!

気がつけば俺は、夜の学校へと走り出していた。夜といっても今は日が長いので、まだ外は少し明るい。

五分ほど走って、大通りに差しかかる。横断歩道の信号は赤だ。少し休憩しよう。異世界なら宿題なんてしなくてもいいのに。息を整えながらそう考えていると、視界の端にあるものが映り込んだ。トラックだ。それもただのトラックではない、あれは――異世界トラックだ!